☆ 4月第2週 ☆    2015/04/02 〜 04/08


 原武史著 『皇后考』 ・・・ 興味津々の書評 by 中島岳志教授 

毎日新聞 '15.3.29 (朝刊)の書評欄に、中島教授 の興味深い文章がありました。
中島先生のテレビでの発言には共感を覚えることが多く、この書評も
大変興味深く読み、考えさせられるところが、数多くありました。
ネット社会になっても、活字の面白さはまだまだ生きてるんですね。



    1926年10月、神功皇后を「第15代天皇」とは認めず、皇統から外すという詔書が出された。
    神功皇后は仲哀天皇の妃で応神天皇の母。 仲哀天皇の死去から、応神天皇が即位する    
    間の約70年間、実権を握っていた。 彼女を天皇としてカウントしなければ、「大空位時代」
    が存在することになる。 それでもなお、神功皇后は歴代天皇の名簿から除外された。
    一体、なぜか?

    カギを握るのは、当時の皇后節子さだこ。 夫は嘉仁(大正天皇)で長男は裕仁(昭和天皇)だ。
    彼女は当時、自らを神功皇后と一体化させつつ「かんながらの道」にのめり込んでいた。

    節子が嘉仁と結婚したのは1900年。 翌年に第一皇子・裕仁を出産したが、嘉仁はすぐに
    駆けつけず、素っ気ない態度を取った。 しかも裕仁は生まれて70日目に伯爵川村純義
    邸に預けられ、母から引き離された。 孤立した節子は精神的に落ち込み、不安を抱え
    込む。

    この頃、傍にいた下田歌子が、節子を励ますため、神功皇后になぞらえる話をした。
    これに勇気づけられた節子は、次第に自分と神功皇后が繋がっているという実感を強め
    ていく。 「節子にとっての神功皇后は、孤独の闇の彼方に現れた一条の光にほかなら
    なかった」

    1912年、明治天皇が死去。 嘉仁が天皇に即位し、節子が皇后となった。 しかし、次第に
    嘉仁の病状が悪化。 宮中祭祀に皇后節子のみが出席するようになった。 危機感を強め
    た彼女は、皇国主義を説く法学者・筧克彦の本を読み、「神ながらの道」へ傾斜していく。

    これを察知した政府首脳は、対策に迫られ、天皇の引退と裕仁の摂政就任を進めた。
    憤ったのは節子だった。 皇后節子と皇太子裕仁の密かな権力争いが発生した。

    節子は夫である天皇の平癒を祈願する旅に出る。 行先は福岡の香椎宮。 神功皇后を
    祭る神社だ。 彼女は神功皇后と一体化することで「皇后霊」を受け継ぎ、天皇よりも
    強い霊力をもとうとした。

    節子の政治的野心に警戒を強めた政府は、神功皇后を第15代の天皇として認めない
    決定を下す。 節子が神功皇后の霊を受け継ぐ「真の天皇」として君臨する可能性を
    絶つ必要があったからだ。 大正天皇の死後、裕仁が即位すると、節子は天皇の脅威と
    なった。 2・26事件の際、節子は決起した皇道派将校に同情的だった。 これに
    脅威を感じた天皇裕仁は激怒。 徹底した鎮圧に乗り出す。

    1945年の敗戦の際、節子は天皇の退位を主張。 自らが天皇に代わる政治主体に
    なることを最後まであきらめなかった。


         こういう情報は、私には初めて聞くものでした。
          日本が天皇によって統治される国だという思い込みは、個々の人には少ないものの、
          時の為政者にとってはいろいろな意味で、己の正統性の根拠として大いに利用したい
          ものだったようです。



    多くの宮中祭祀が「創られた伝統」であるように、天皇制のあり方も近代という時代の
    中で再編成し続けている。 大胆な推論を重ねながら近代天皇制の本質に迫った
    本書は、様々な議論をき起こすだろう。 刺激に満ちた一冊だ。


        テレビやネット上の軽い話題が好まれる今日、このような緻密な推論・分析に
          出会うことで、自分の『頭』を鍛えることも、楽しいことだと思うのでした。

          個人的には、天皇家の伝統は尊重しつつ、政治からの独立を願う私です。
          憲法に天皇制を持ちこむのではなく、日本の伝統のひとつとして、天皇家を
          日本の誇りのひとつとして、敬愛し続けたい というのが、私の思いです。




明治維新でも薩長による天皇利用という「政治的偽装」がありましたが、もうそろそろ
そういう悪習からの脱却を考える時期になっている ・・・ と思うのです。




プログラムで振り返るオペラ Part.2 F : シュトラウス U 「 こうもり 」



   こんな楽しいオペレッタは、理屈抜きに楽しみたいもの。 その意味では、日本語による上演も    
   いいんじゃないでしょうか。 字幕を目で追う煩わしさなしに、この作品が味わえます。


 1991/11/15 中村健指揮 大阪センチュリー交響楽団: 尼崎 アルカイックホール
 布埜秀ム、淡路和子、滝川千春、向山裕子 ほか  関西歌劇団第61回定期公演 
 1999/06/15 * 飯守泰次郎指揮 関西フィルハーモニー管弦楽団: ザ・シンフォニーホール
 澤井宏仁、岡坊久美子、田中勉、日柴喜恵美 ほか  シュトラウスU没後100年記念
 1999/06/19 フィッシュ指揮 ウィーン・フォルクスオーパー管弦楽団: びわ湖ホール
 A.ダラポッツァ、G.ドゥスマン、W.スラッバード、U.グフレラー ほか
 2011/07/19 佐渡裕指揮 兵庫県立芸術文化センター管弦楽団: 兵庫県立芸術文化センター
 小森輝彦、佐々木典子、大山大輔、小林沙羅 ほか 

              * は、演奏会形式によるもの、日付紫色は日本語上演。


   '91 のものについて、「女性陣が奮闘! 個人的には 《ジプシー男爵》 の方が楽しめたが、もっと多く演奏して    
   欲しい作品。 」 と記してありました。

   '99 には同じ週に2つの公演を見ています。 最初のものについて「分かりやすく楽しめる。 岡坊さん・日柴喜
   さんがいい。 オケは張り切り過ぎでは? ウィーンとの比較が愉しみ。」

   そして4日後の上演については、「みんな実にうまい。 特にアデーレ役の声がいい。 オケも第二幕になって
   絶好調。 11時に帰宅、大津は遠くて疲れる。」

   '11 は、おなじみの地元での公演。 「女性陣が圧倒的にいい。 サービス精神横溢はいいのだが、これでは
   普遍性に疑問。 もっと音楽そのものを味わいたい気がする。」 と素直な感想を記しています。
   実は、フロッシュの役を落語家の桂ざこばさんが演じたのですが、関西風のオモロさ全開で、いささか辟易の
   感じ。 演出のやりすぎは、オペラではやはり疑問ですね。



   LPでは、C.クライバー指揮、バイエルン国立歌劇場のものを持っていました。 これはヘルマン・プライ、
   ユリア・ヴァラディ、ルチア・ポップなど文句なしの名歌手が揃った名演でした。





今週のBravi !     先日行われたフランスの県会議員選挙。 びっくりするような新しい方式です。

  国会議員や、市会議員に比べて、女性議員の少ない県会議員の現状打破に
  「男女ペア」での立候補という 《奇策》 が採られたそうです。

  結果は、もちろん当選議員は男女同数。 さすがエスプリの国、フランスですね。

       参考 : フランスの県議会議員選挙制度改正



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