☆ 7月第3週 ☆    2015/07/09 〜 07/15


 マザー ・ テレサのひとみ 


久しぶりに 茨木のり子 さんの 「詩集」 を無性に読みたくなりました。



     マザー・テレサの瞳は
     時に
     猛禽類のように鋭く怖いようだった
     マザー・テレサの瞳は
     時に
     やさしさの極北を示してもいた
     二つの異なるものが融けあって
     妖しい光を湛えていた
     静かなる狂とでも呼びたいもの
     静かなる狂なくして
     インドでの徒労に近い献身が果せただろうか
     マザー・テレサの瞳は
     クリスチャンでもない私のどこかに棲みついて
     じっとこちらを凝視したり
     またたいたりして
     中途半端なやさしさを撃ってくる!

     鷹の眼は見抜いた
     日本は貧しい国であると
     慈愛の眼は救いあげた
     垢だらけの瀕死の病人を
     ――なぜこんなことをしてくれるのですか
     ――あなたを愛しているからですよ
     愛しているという一語のいかりのような重たさ
     自分を無にすることができれば
     かくも豊饒なものがなだれこむのか
     さらに無限に豊饒なものを溢れさせることができるのか        
     こちらは逆立ちしてもできっこないので
     呆然となる

     たった二枚のサリーを洗いつつ
     取っかえ引っかえ着て
     顔には深い皺を刻み
     背丈は縮んでしまったけれど
     八十六歳の老女はまたなく美しかった
     二十世紀の逆説を生き抜いた生涯

     外科手術の必要な者に
     ただ繃帯を巻いて歩いただけと批判する人は
     知らないのだ
     瀕死の病人をひたすら撫でさするだけの
     慰藉いしゃの意味を
     死にゆくひとのかたわらにただ寄り添って
     手を握りつづけることの意味を

     ――言葉が多すぎます
     といって一九九七年
     その人は去った


           「倚りかからず」 筑摩書房刊 より





プログラムで振り返るオペラ 最終回 : 團 伊玖磨 「 夕鶴 」



   これまでのオペラ紹介で、日本を舞台にしたものは 「蝶々夫人」 がありましたが、日本人作曲家による作品は     
   皆無でした。 このシリーズの最後に、日本のオペラ 「夕鶴」 を取り上げることにしました。

   鑑賞したのは、1993/11/26 ザ・カレッジ・オペラハウスでの公演です。
   「日本オペラシリーズその1」 と銘打ったこのシリーズ、後続公演の鑑賞はしていませんので詳細不明です。

      指揮 : 團 伊玖磨、 演出 : 鈴木 敬介、 ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団

      歌い手は、田中千恵子(つう)、林誠(与ひょう)、井上敏典(運ず)、田中勉(惣ど)という
      関西ではよく知られた面々。
   当日の日記には、

      脚本がしっかりとしており、演出が心憎い。 とても40年前の作品とは思えない新鮮さ。
      とはいえ、現時点での上演としては、少々長すぎる感が否めない。 それと、できれば重唱の魅力を
      聞かせるシーンが欲しかったと思う。
      とは言え、トータルには 二重丸 の上演だった。

   作品そのものには、ずいぶん勝手な注文をつけていますが、よい作品・よい上演であったことは
   間違いありません。

   私はこれ以外に、日本人作曲家によるオペラを鑑賞する機会は持っておりません。

   オペラと聞くと、敷居が高いと感じる方が多いのが現状かと思います。
   言葉の壁というのもありますし、何よりも演奏時間が通常のコンサートよりも長い。
   しかし、舞台の上で歌手が動き、しばしば大勢の出演者による合唱(や、時にはバレー)が入るなど、
   その艶やかさは格別で、文字通りにクラシック演奏会の 『華』 そのものなのです。

   最後に、今回のシリーズで取り上げなかった作品の鑑賞リストを記して、終わりといたします。
   オペラ鑑賞が私にとって大変興味深いものであったことがお分かりいただけるかと思います。

作曲者曲名鑑賞日ホール名
指揮者オーケストラ出演者
 ヴァイル 三文オペラ 1959/07/15 日比谷公会堂
 金子登 東京フィルハーモニー 竹原正三、友竹正則、梅村聖子ほか
 バーンスタイン ウエストサイド物語 1964/11/11 日生劇場
   *ポール・ジラード プロダクション* タッカー・スミスほか
 ワーグナー タンホイザー 1989/06/19 アルカイックホール
 佐藤功太郎 京都市交響楽団 若本明志、岡坊久美子、木川田誠ほか
 モーツァルト コジ・ファン・ツゥッテ 1990/06/16 アルカイックホール
 田中良和 京都市交響楽団 垣花洋子、畑田弘美、山本佳人ほか
 ヴェルディ 仮面舞踏会 1991/06/22 アルカイックホール
 ウリ・セガル 大阪センチュリー 油井昌行、三室尭、百本淑子ほか
 ヴェルディ ファルスタッフ 1993/05/16 アルカイックホール
 小澤征爾 新日本フィル ラクソン、コーニ、ジェイムズほか
 チェスティ オロンテーア 1995/09/10 ザ・カレッジ・オペラハウス
 有村祐輔 古楽器合奏 山内房子、藤澤真理、牧野正人ほか
 モニュシュコ ハルカ 1995/11/12 アルカイックホール
 ヴォイチェホフスキ 関西フィルハーモニー 淡路和子、ヴェドナーレック、田中勉ほか
 チャイコフスキー スペードの女王 1996/01/15 フェスティバルホール
 ククージキン レニングラード歌劇場 ルーツック、サディナ、コピロフほか
 ジョルダーノ フェドーラ 1998/09/26 びわ湖ホール
 ランザーニ ボローニャ歌劇場 フレーニ、スカラベッリ、クーラほか
 ウェーバー 魔弾の射手 1999/10/08 神戸こくさいホール
 ポーラック バーデン市立歌劇場 ムュゥラー、ブランドシュテッタァー、フラェイほか
 ヴェルディ 運命の力 2000/02/03 びわ湖ホール
 ゲルギエフ キーロフ歌劇場 ゴルディ、グレゴリアン、プチーリンほか
 オッフェンバック 天国と地獄 2000/09/24 神戸こくさいホール
 ポーラック バーデン歌劇場 マァーツァッハ、ヤニィチェロォ、ライムスバッハほか
 ヴェルディ ジャンヌ・ダルク 2000/11/25 びわ湖ホール
 若杉弘 京都市交響楽団 福井敬、直野資、浜田理恵ほか
 ヴェルディ シモン・ポッカネグラ 2001/06/24 びわ湖ホール
 バルンボ フェニーチェ歌劇場 サルヴァドーリ、ファルノッキア、マルティロッシアンほか  
 ヴェルディ アッティラ 2001/11/03 びわ湖ホール
 若杉弘 京都市交響楽団 妻屋秀和、堀内康雄、島崎智子ほか
 プッチーニ ラ・ボエーム 2007/03/11 ザ・カレッジ・オペラハウス
 広上淳一 カレッジ・オペラ管弦楽団   並河寿美、小餅谷哲男、田邊織恵ほか
 ドニゼッティ ランメルムーアのルチア 2007/06/16 いずみホール
 菊池彦典 カレッジ・オペラ管弦楽団  井原秀人、佐藤美枝子、望月哲也ほか
 プッチーニ 修道女アンジェリカ 2009/01/23 芸術文化センター中ホール
 奥村哲也 エウフォニカ管弦楽団 渡邊早貴子、井上美和、松村まどかほか
 プッチーニ ジャンニ・スキッキ 2009/01/23 芸術文化センター中ホール
 奥村哲也 エウフォニカ管弦楽団 津国直樹、山守美由紀、隅地正直ほか
 チャイコフスキー エフゲーニ・オネーギン 2009/12/04 芸術文化センター大ホール
 フェラネツ レニングラード歌劇場 ネチャーエワ、ラブロフ、ビンチュークほか
 バーンスタイン キャンディード 2010/07/27 芸術文化センター大ホール
 佐渡裕 芸術文化センター管弦楽団   ジェニングス、フィンチ、ブレッケンリッジほか
 ヴェルディ アイーダ 2010/10/15 芸術文化センター大ホール
 コジュハル ウクライナ歌劇場 アニシヴァ、ロマネンコ、ボズニャークほか
 ボロディン イゴーリ公 2012/01/28 芸術文化センター大ホール
 ヤコヴェンコ ウクライナ歌劇場 ブラゴダールヌィ、グラシェンコ、ザムィッキーほか






今週のよう!
ご同輩    
  長生きが 幸せだったと 言いきれず

          奈良・御所市 中村宗一さん

          7/10 毎日新聞 近藤流健康川柳




    
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